横浜暮らし50年:井上公基(2026年1月18日)
1. 横浜との出会い
横浜で暮らし始めてから、気がつけば長い年月が流れました。最初にこの街に足を踏み入れたのは、結婚を機に新しい生活を始めようとしていた頃のことです。
当時、職場の先輩から「これからの暮らしを考えるなら、横浜はきっと良い選択になるよ」と助言を受けたことがきっかけでした。その言葉が、今日まで続く横浜との縁につながったと思うと、今でも不思議な巡り合わせを感じます。
2. 家族とともに育まれた横浜での時間
横浜での暮らしは、静かな住宅地での穏やかな日々から始まりました。周囲には緑が多く、子育て世代が集う温かな雰囲気があり、家族の成長を見守るには理想的な環境でした。
その後、生活の変化に合わせて住まいを移すたびに、横浜のさまざまな表情と出会いました。街並みを見渡せる高台の家、利便性に優れた市街地、落ち着いた住宅地など、どの場所にもその時々の家族の姿が重なっています。
子どもたちが成長し、家族の形が変わっていく中で、横浜という街はいつも静かに寄り添い、暮らしを支えてくれました。
3. 住まいの変遷とともに広がる横浜の魅力
横浜は、港町としての華やかさだけでなく、住宅地としての落ち着きや、地域の温かさが共存する街です。
海風が心地よいエリア、緑豊かな丘の上の住宅地、買い物や文化施設が集まるにぎやかな中心部。住む場所が変わるたびに、新しい風景と出会い、横浜の多彩な魅力を再発見してきました。
長く暮らして感じるのは、横浜が「訪れる人にも、暮らす人にも優しい街」であるということです。歴史と文化、自然と都市が調和し、どの季節にも違った表情を見せてくれる。そんな横浜の魅力を、これからも多くの方に知っていただければ嬉しく思います。
長く暮らしてきた横浜には、今でもふと歩きたくなる場所がいくつもあります。四季折々に表情を変えるこの街で、変わらず足を運び続けているお気に入りの風景がたくさんあります。ここからは、私自身が撮影してきた写真とともに、横浜の魅力あふれる名所をご紹介していきます。港町ならではの開放感、歴史が息づく街並み、そして季節ごとに変わる自然の彩り――。長年の暮らしの中で出会ってきた“横浜らしさ”を、皆さまにも感じていただければ幸いです。
4. 心が向かう横浜の風景
長く暮らしてきた横浜には、今でもふと歩きたくなる場所がいくつもあります。四季折々に表情を変えるこの街で、今も変わらず足を運んでいるお気に入りの場所がたくさんあります。
大さん橋:よく訪れるのが、横浜港の大さん橋です。大きな客船や珍しい船が行き交う様子を眺めるのが好きで、何度訪れても飽きることがありません。
先日は「飛鳥Ⅲ」の出航があり、夕暮れの空の下、その瞬間を見届けようと1時間前から桟橋で待ちました。空がオレンジ色に染まり、海と空の境目が溶け合うような光景に、思わず見とれてしまいました。
桟橋からは、街のビルの合間に富士山がかすかに姿を見せてくれることもあります。屋上のウッドデッキでは、木のぬくもりを感じながらゆったりと歩くだけで、心がふっとほどけていきます。飛鳥ファンや観光客が思い思いに夕景を楽しんでいて、そこには穏やかな時間が流れています。
写真1:世界最大級の巡視船「あきつしま」と、海に帆を広げたように佇むヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル。写真2:大さん橋に停泊する「飛鳥Ⅱ」の堂々たる船首と、その背後に広がる「みなとみらい」のビル群。写真3:大さん橋から望む夕暮れの「飛鳥Ⅱ」と、茜色に染まる「みなとみらい」の高層ビル群。写真4:大さん橋に停泊する「飛鳥Ⅱ」と、左手に見える横浜税関のクラシックな姿。(いずれも2025年11月末撮影)
横浜大通り公園:その足で、横浜大通り公園にも立ち寄ってみました。横浜スタジアムの北側にあるこの公園は、こぢんまりとしていながら、いつも何かしらのイベントでにぎわっています。この日のスタジアムでは「ベイスターズファン感謝デー」が行われていたようで、子どもたちが選手と一緒に野球を楽しんでいました。
公園内ではイルミネーションが灯され、子どもたちの笑い声が響く中、秋の夕暮れにぴったりの幻想的な雰囲気が広がっていました。訪れた人たちがそれぞれの時間を楽しんでいて、家内とともにその中にそっと混ざりながら、ゆったりとしたひとときを過ごしました。
横浜という街は、住む人の時間に寄り添ってくれるような、そんなやさしさがあります。これからも、この街とともに、日々を大切に重ねていきたいと思っています。
写真1:光に包まれた横浜スタジアム。夏の夜空に浮かぶスタジアムの白い光が街の鼓動を静かに映し出す(2025年6月18日)。写真2:夜の闇に浮かび上がる開港記念会館。赤レンガの塔が柔らかな光に照らされ、歴史の息づかいが際立つ(2024年11月30日)。写真3:日本大通りの光の中の神奈川県庁(2025年11月24日)。
根岸森林公園:この公園は、1867年にわが国最初の洋式競馬が行われたところです。1943年まで、競馬が開催されていましたが、戦後は接収され、米軍のゴルフ場になっていました。1969年にゴルフ場だった場所が接収解除となり、横浜市は1972年から公園整備に着手し、中央競馬会による競馬記念公苑と共に、1977年に根岸森林公園として、一般開放されました。面積は19ヘクタールの園内には自然の丘陵を活かした広大な芝生の広場があります。
写真1:広大な芝生に夕暮れの光が差し込む根岸森林公園。ゆるやかな斜面が金色に染まり、静かな時間が流れる。写真2:根岸森林公園にひっそりと佇む旧根岸競馬場の観覧席跡。かつての賑わいを胸に秘め、今は森の静寂に溶け込む姿が印象的。写真3:公園北側に広がる紅葉の森。冬の訪れを前に、色づいた木々が柔らかな光を受けて輝く。(いずれも2025年11月30日撮影)
横浜三塔:横浜三塔の愛称は、昭和初期に外国船員たちがそれぞれの建物をトランプのカードに見立て、「キング」「クイーン」「ジャック」と呼んだことに由来すると言われています。「キング」は1928年竣工の神奈川県庁本庁舎で、堂々とした姿が特徴です。「クイーン」は1934年竣工の横浜税関で、エキゾチックなイスラム寺院風のデザインが目を引きます。「ジャック」は1917年竣工の横浜市開港記念会館で、東南隅の時計塔と西南隅の八角ドームが印象的な建物です。これら三塔は戦争などの困難をくぐり抜け、横浜の歴史を見守り続けてきました。いつしか船員たちは航海の安全を祈り、三塔を目印に入港したとも伝えられています。三塔を一度に見渡せる場所は限られており、赤レンガ倉庫周辺や大さん橋国際客船ターミナルなどが代表的なスポットです。以下に、横浜散歩の折に撮影した King・Queen・Jack の三塔をご紹介します。
写真1:「King」こと神奈川県庁本庁舎。重厚な塔が冬の空に凛とそびえる(2023年12月4日)。写真2:「Queen」横浜税関。優雅なドームが港町の風景にやわらかく映える(2025年11月24日)。写真3:「Jack」横浜市開港記念会館。赤レンガの塔が歴史の趣をまとい、街角に静かに佇む(2024年11月30日)。
● 春の横浜
3月末には桜が満開となり、旧横浜プリンスホテル脇の急坂からは磯子の海と房総半島が望めます。横浜公園のチューリップ、赤レンガ倉庫の桜など、春の横浜は色彩にあふれています。
横浜スタジアムに隣接する横浜公園では、プロ野球の開幕に合わせてチューリップが咲き誇り、春の訪れを鮮やかに告げてくれます。そこから少し足を延ばすと、ワールドポーターズや船員会館があり、横浜らしい港町の風情を感じられます。
さらに進むと赤レンガ倉庫のエリアへ。倉庫脇の公園でも桜が見事に咲き、歴史ある建物と春の彩りが美しいコントラストを描きます。
写真1:春の旧横浜プリンスホテル坂道。満開の桜越しに海が広がり、淡い光が季節の訪れを告げる(2024年4月7日)。写真2:春の彩りに包まれた横浜スタジアム。新緑と花々がスタンドを縁取り、街の中心にやさしい季節の息吹が満ちる(2024年4月7日・2022年4月8日)。写真3:船員会館周辺の春景色。柔らかな陽ざしの中、港町らしい静かな佇まいが広がる(2024年3月)。写真4:シーサイドラインでいける八景島近くの横浜金沢地区。
● 初夏の横浜
象の鼻パークから眺める横浜三塔のKingとQueen。桜木町から伸びるゴンドラ。日本大通りのイチョウ並木。初夏の横浜は、光と風が心地よい季節です。
続く写真は、桜木町駅から伸びるゴンドラを海上から撮影したものです。横浜船員会館を越え、ワールドポーターズが終点となるこの空中散歩は、港町ならではの景色を楽しめます。
日本大通りの神奈川県庁前に並ぶイチョウ並木は、横浜の季節を象徴する風景のひとつです。以前、県庁に勤める方がこんな話をしていました。
「イチョウの若葉が芽吹くころが夏のボーナス、イチョウが色づくころが冬のボーナスの目安なんですよ。」
なるほど、公務員とはなんとも季節に寄り添った人種だと、思わず笑ってしまいました。
日本大通りをそのまま進むと横浜新港へと向かいます。そこには、かつての海運作業を支えたハンマーヘッドクレーンが今も姿を残し、往時の港の営みを静かに物語っています。
写真1:水辺に映える「King」と「Queen」。初夏の光を受け、横浜三塔が港町の風景に気品を添える(2022年5月)。写真2:水辺と都市をつなぐエアキャビン。運河の上を静かに進むゴンドラが、街と港を軽やかに結ぶ(2022年5月)。写真3:街路樹の向こうに姿を見せる歴史ある神奈川県庁。新緑に縁取られ、重厚な建築がひときわ映える(2024年4月)。写真4:港の記憶を伝えるハンマーヘッドクレーン。かつての賑わいを今に残す鉄のシルエットが、海風の中に佇む(2023年6月)。
● 夏の横浜
横浜スタジアムで孫と楽しむナイター観戦。ニューマン横浜の屋上から望む港とベイブリッジ。みなとみらいのホテルから眺める夜景。夏の横浜は、家族の思い出が重なる季節です。夏は横浜スタジアムでのナイター観戦が楽しみのひとつです。大学同期の友人からシーズン券を譲ってもらい、孫と一緒に横浜ベイスターズの試合を観戦する時間は、夏の思い出として特別なものになっています。
ニューマン横浜駅の屋上からは、ビルの合間に横浜港とベイブリッジ方面を望むことができます。ここには、横浜を代表する鰻の名店「八十八」があり、その味はいつ訪れても満足させてくれます。
続く写真は、みなとみらいのホテルから撮影した2012年の風景です。ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルと、その向こうに伸びるベイブリッジを遠望する眺めは、みなとみらいらしい開放感にあふれています。その真下には、今も変わらず人気の「よこはまコスモワールド」のアミューズメントゾーンが広がり、夏の夜を彩っています。
写真1:初夏の横浜スタジアム。緑のフィールドと白いスタンドが、季節の光に鮮やかさを増す(2023年6月19日)。写真2:横浜ニューマンから遠望するベイブリッジ。夏の空気の中、白いアーチが港の向こうに静かに浮かぶ(2024年8月8日)。写真3:帆のかたちのホテルが港に浮かぶ、都市と海が交わる風景。横浜らしいシルエットが夏の光に映える(2012年8月26日)。写真4:揺れの記憶と都市の歩みを映す、港町の一断面。時の積み重ねが静かににじむ情景(2012年8月26日)。
● 秋の横浜
大さん橋で見送る「飛鳥Ⅱ」の出航。山下公園の噴水越しに見るホテルニューグランド。根岸森林公園の黄葉。秋の横浜は、歴史と季節が静かに溶け合います。
旅行シーズンになると、横浜港には大型客船が次々と入港します。「飛鳥Ⅲ」が就航した今でも、「飛鳥Ⅱ」は現役で活躍しており、夕刻に大さん橋からその出航を見送る時間は、秋の港ならではの静かな感動があります。
大さん橋から山下公園沿いに歩くと、噴水越しにホテルニューグランドが姿を見せます。敗戦後、GHQの統治下でマッカーサー司令官が指揮を執ったとされる歴史あるホテルで、その佇まいにはどこか異国の香りが漂います。
続く写真は、ホテルニューグランドの中庭です。菊が美しく配置された庭を眺めながら喫茶室でいただくコーヒーは、まるで外国のホテルにいるかのような雰囲気を感じさせてくれます。
4枚目の写真は、根岸森林公園です。ここは日本初の競馬場があった場所で、戦後は占領軍がゴルフ場として使用していましたが、返還後は市民に開放され、広大な緑地として親しまれています。秋が深まる頃、この公園の黄葉は見事で、静かな時間の中で季節の移ろいを存分に味わうことができます。
写真1:横浜港で出航を待つ「飛鳥Ⅱ」。静かな海面に白い船体が映え、旅立ちの気配が漂う(2025年11月)。写真2:ライトアップされた横浜マリンタワーを背景に、ホテルニューグランドが重厚な姿を見せる。港町の夜景に歴史の風格が溶け込む(2024年11月)。写真3:ホテルニューグランドの中庭。緑と光に包まれた静かな空間が、クラシックホテルの魅力をそっと伝える(2024年11月)。写真4:根岸森林公園の晩秋。広がる芝生と色づく木々が、季節の深まりを静かに語る(2025年11月)。
● 冬の横浜
日本丸メモリアルパークの帆船日本丸。磯子の火力発電所、本牧埠頭の「キリン」。冬の澄んだ空気の中で見る横浜三塔。そして元町商店街の移りゆく時代。冬の横浜は、静けさの中に確かな息づかいがあります。
桜木町駅からほど近い横浜みなとみらいウォーターフロントパークには、日本丸メモリアルパークがあり、帆船日本丸が静かに係留されています。日本丸は1930年に建造された練習帆船で、かつては横浜港の大さん橋を拠点にレストラン船としても親しまれていました。冬の澄んだ空気の中で見る白い船体は、どこか凛とした美しさがあります。
横浜港からは、磯子の火力発電所が遠望できます。冬の光に照らされたその姿は、港の産業を支えてきた横浜のもう一つの顔を感じさせます。同じく港から見える本牧埠頭の巨大なガントリークレーン、通称「キリン」も、冬空の下で一層存在感を放っています。
続く写真は、横浜三塔――Jack(横浜開港記念会館)、Queen(横浜税関)、King(神奈川県庁)です。冬の澄んだ空気の中で見る三塔は、いつも以上に輪郭がくっきりと浮かび上がり、横浜の歴史を静かに物語っています。
最後は冬の元町商店街です。かつて名を馳せた店舗のいくつかは店じまいし、時代の移り変わりを感じさせます。それでも街並みにはどこか温かさが残り、冬の散歩にふさわしい落ち着いた雰囲気が漂っています。
写真1:桜木町に停泊する日本丸。冬の澄んだ空気の中、白い帆船が静かに佇む(2021年12月24日)。写真2:サンタを乗せた船が横浜の海に灯るひととき。港に小さな光が揺れ、冬の夜に温もりを添える(2011年12月9日)。写真3:磯子火力発電所。冬の空を背景に、巨大な構造物が港の産業を象徴するように立ち上がる(2022年12月16日)。写真4:本牧のコンテナクレーン群。港の営みを支える鉄のシルエットが、冬の海辺に力強く並ぶ(2022年12月16日)。写真5:青と黄の光に包まれる横浜開港記念館「ジャックの塔」。歴史ある塔が夜の街に鮮やかな存在感を放つ(2024年11月30日)。写真6:新港国際橋より真っ白なみなとみらい(2023年12月22日)写真7:ライトアップされた横浜税関「クイーンの塔」。優雅なドームが冬の夜景にやわらかく浮かび上がる(2023年12月22日)。写真8:ライトアップされた神奈川県庁「キングの塔」。重厚な建築が光に照らされ、横浜三塔の威厳を示す(2025年11月24日)。写真9:時代の移り変わりを感じる横浜元町(2025年2月26日)
5.横浜を愛する皆様へ
横浜で暮らしてきた年月の中で、街は何度も姿を変えながらも、いつも新しい魅力を見せてくれます。港町ならではの開放感、歴史が息づく街並み、そして四季ごとに移ろう自然の表情。そのどれもが、日々の暮らしに彩りを添えてくれています。
今回ご紹介した写真やエピソードは、長く横浜に暮らす中で出会ってきた、私なりの“横浜の風景”です。訪れる方にとっては旅の楽しみに、離れて暮らす方にとっては懐かしい思い出に、そしてこれから横浜を知る方にとっては新しい発見につながれば嬉しく思います。
横浜は、観光地としての華やかさと、生活の場としての温かさが共存する街です。これからも、この街の魅力を感じながら、ゆっくりと歩き続けていきたいと思います。
皆さまにも、ぜひそれぞれの“横浜の一枚”を見つけていただければ幸いです。(2025年1月18日)